1998年、スウェーデン・ダロス社より、船舶用の大型リング旋削専用機の開発依頼が舞い込みました。ダロス社は創業100余年の歴史ある船舶用ピストンリングメーカー。従業員を200名以上抱える、トップセールスの企業です。φ300〜1100mmという超大型リング加工機の依頼でしたが、こちらは自動車やトラックから船舶エンジン用まで、φ60〜φ600mmのピストンリング加工専用機の開発実績を持つ片岡です。片岡社長は設計技術者を伴い、意気揚々とスウェーデンへと渡航しました。 |
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一通りプレゼンテーションを聞いた後、ダロス社の社長はおもむろに、「申し訳ないが、我々はあなたがたの機械にまったく興味がない」と言いました。理由は実に明解でした。日本の物づくりは“工程分散型”。一つの物を作り上げるのに、たくさんの機械と人員を揃えて加工しています。ところが人口が少なく、賃金水準の高いスウェーデンでは、機械に多機能を持たせ、少ない人員で複数の工程をこなす“工程集約型”の生産方式だったのです。プレゼン後、現地で工場見学をした片岡一行は、メカニカル制御方式の1台の機械を目の当たりにします。それは、円筒状の素材の内外径を楕円加工し、切り取る直前にロボットが受け取るスタイルの、まさに“工程集約型”の機械でした。 |
「この機械をCNC化できるようなら、あなたがたにチャンスをあげましょう」。工場見学後、ダロス社社長にそう告げられた片岡社長。しかし、片岡社長にはすでに勝算がありました。CNCによる小型リングの内外径楕円加工機は、「DCM-1」ですでに開発実績がある(※第一章ご参照)。リングはサイズが大きくなるほど刃にかかる負荷が高くなるため、機械の剛性は不可欠でしたが、旋削は回転速度が遅くなるため、リスクは少ない—。このような理由から、片岡社長にはダロス社の依頼を実現できる確信があったのです。 |
ところが最終見積段階で、「これでは投資効率が合わない」と、ダロス社から「待った」が掛かりました。賃金水準の高いスウェーデンでは、よりロボット化がマストです。そこで片岡では、1人のオペレーターで加工品の排出と次加工部材セッティングが同時にできる「オートマチックパレットチェンジャー(A.P.C)」を提案。ダロス社のニーズに+αの付加価値を持たせることで、懸念されていた投資効率問題をクリアしたのです。結果、そのひと月後にはA.P.C付きの専用機2台分の契約が成立しました。 |
1999年、「VC-900」の完成品の納入に立ち合った片岡社長は、ダロス社社長から一冊の分厚いファイルを手渡されました。ダロス社社長に促されるまま片岡社長が目を通すと、それは会社案内で、中には「VC-900」の性能を大々的にアピールする文面が掲載されていたのです。 「開発機の納入前に印刷されたであろうその真新しい会社案内を読んで、ダロス社が当社の製品にいかに信頼を寄せてくれていたかを実感しましたね」と、片岡社長は当時を振り返ります。その後、ダロス社はシェアを大きく拡大。4年後には、ダロス社よりCNC全自動超大型ピストンリング内外径カム旋削&マーキング複合機「VC-1100」の受注開発が始まるなど、新たなる実を結んでいます。 |